2021/05/31
栄養障害に伴い上眼瞼向き眼振および意識障害、失調性歩行を認めたWernicke 脳症の1症例を経験したので、文献的考察を加え報告した。神経耳科的所見では、注視方向性水平性眼振および頭位、頭位変換眼振検査にて上眼瞼向き眼振を認めた。視標追跡検査では両側saccadic patternであった。視運動性眼振検査では両側眼振数解発不良であった。温度眼振動検査では両耳とも水平方向はほぼ無反応であったのに対し、上眼瞼向き眼振を認めた。以上の結果より脳幹および小脳の広範な障害が推定された。本症の報告数は、減少傾向にあるが、発症要因は多様化している。Wernicke脳症は発症初期での訴えが、ふらつきであることも多く、短期間の絶食で急激に発症することもある。平衡障害、摂食および嚥下障害を扱う耳鼻咽喉科医は本症を常に念頭に置くべきである。